はじめに
就活において最も重要なこと、かつ難しいことは、目標を定めること、具体的に言うと「自分が行きたいと思う業界や企業を見つけること」なのではないかと思う。
目標の達成に向けて努力することも、もちろん重要だ。立てた目標は達成しなければ意味がない。しかし、就活においては、目標を定めることの重要性が桁違いなのではないかと、私は考える。
多くの東大生にとって、いや多くの大学生にとって、これまでの競争はほとんどすべて、「正解」や「勝ち負け」がはっきりしているものだったのではないだろうか。目標の設定で悩むことは、そこまで多くなかったのではないか。
勉強はその最たる例であろう。点数という誰が見ても分かる尺度で測られる。受験は、「合格」という目標がはっきりしており、評価基準も点数という分かりやすく絶対的なものだ。
スポーツも、種目によって多少の差はあれどこうした側面を持つ。記録、点数など明確な尺度をもって勝敗が決するものがほとんどであろう。目的も勝つこと、上手くなることなど、明確であることがほとんどであり、疑問を差し挟む余地はそれほどないように思う。
しかし、就活はこうしたものとは少々異質であるように感じる。「志望する企業に内定をもらうこと」という大きな目標で見れば同じかもしれないが、100人いれば、100通りの目標があり得る。誰かの正解は、他の誰かから見ればそうではないかもしれない。
これが、「これまで多くの東大生が経験したことのない」という点で就活の特異性であり、偏差値的な思考に陥りがちな方々は留意すべき点である。
かく言う私もまさにこのような就活偏差値的な数字を当てにし、上の企業はかっこいいんじゃないか、という理由で投資銀行を見始めたような人間である(注:以下文章中の「投資銀行」とは、すべて「投資銀行部門」を指す)。
就活で見ていた業界の特性もあるのだろうが、東大生には偏差値的思考、とりわけ「世間からどれだけすごいと思われるか」を一つの尺度としている人が、とても多いように感じた。
本稿はこうした「とりあえず人気そうな企業に行こうかな」と思っている人に向けたものである。
それが間違っていると言いたいわけではないが、本当にそれで良いのか、というのを一緒に考えたいと思う。
大切なのは「自分が納得できるか」
結局私は投資銀行を進路に選んだわけだが、働いて数ヶ月経ってみて明確に言えることは、「投資銀行を選ぶ、という選択は万人にとってベストである」なんて到底言えない、ということである。
その理由は、一言でまとめてしまえば「極端な価値観を持っていない限り耐えられないだろうから」である。
投資銀行が向いている、というこの文脈での価値観とは、大袈裟に言えば
- (お金が貰えれば)睡眠時間やプライベートはどうでもいい
- 時間がなく、ミスが許されない高いプレッシャーの中で日々神経をすり減らすことを厭わない
といったある種、諦めのようなものだ。
もちろん私は正式な職業として投資銀行以外を経験したことはないし、程度は違えど上記のような側面はどの職場でも存在すると推察するが、友人の話を聞く限りでは投資銀行の環境はやはり特殊であると思う。「この仕事を他人に勧めたいと思うか」と聞かれたら、「人による」と答えるだろう。
それでも、少なくとも私にとって新卒で投資銀行に就職する、という選択は正解だったと思っているし、今学生の時に戻ったとしても同じ選択をするだろうと思う。
こう思えるようになるまでにかなり時間や労力をかけた。興味のあることを考え、調べ、話を聞き、インターンに参加した。
結果的に私はこの選択が今の自分にとって正解なんじゃないか、と結論づけ、今はその選択を正解にすべく日々もがいている。
それぞれの職場にはその職場特有の特徴や苦労があるだろうし、反対に得られるものも違いがあるだろう。上記投資銀行の話はあくまで一例に過ぎない。
万人にとっての正解がない以上、就活の最後の決断で重要なのは、「自分が納得できるか」ではないかと考えている。
目標を定める方法(案)
では、自分が納得する決断をするために、数えきれないほどある企業からどう選ぶか、という話になる。
この絞り方にも正解はないだろう。こう言っていては何の解決にもならないので、思いつくものをいくつか挙げたいと思う。
【業界から選ぶ】
まず思いつくのはこれだろう。説明会に参加したり、自分で調べたりして、興味ある業界を絞っていく。これまで自分が興味を持ったこととか、面白かった授業といった過去の経験から選ぶのも良いだろう。
とにかく、自分が面白い!と思う業界を見つけてみる。説明会は各社アピールの場なのでどれも魅力的に見えるだろうが、それでも多少の濃淡はあるであろう。
【価値観から選ぶ】
それでも選べない、という人が特に東大生には多いのではないかと思う。というのも、進振りという制度ゆえか、「やりたいことが明確ではないけど勉強が得意だったから東大に入った」という人がとても多いからである(もちろん私もそうである)。
どの業界も魅力的だしなぁ、という人は、自分が働く上で何を重視するかを考えてみるのも一案だ。
例えば、以下のようなものが挙げられる。これらはすべてバランスの問題だと思うが、ここは譲れない、という点や優先順位を考えてみるといいかもしれない。
- 収入とやりがい:やりがいがあれば収入は低くても頑張れるのか、やりがいなんてなくてもいいから収入が重要なのか
- ワークライフバランス:平日の夜や土日の時間は仕事をしたくないのか、別にそれは構わないのか
- 勤務地や転勤リスク:勤務地に特別なこだわりはあるのか、転勤や駐在は許容できるか
- 評価体系:実力主義がいいのか、ある程度道が決まっている年功序列的な方がいいのか
その後のキャリア:転職先の候補、幅、あるいは勤め上げるのが主流かどうか
他にも色々あるだろうが、上記がすべて似通っている業界はそう多くないだろう。譲れる点、譲れない点なども含め、考えてみるといいかもしれない。
最後に
ここまで長々と書いてきたが、上記もすべて一つの価値観であり、そういう考え方もあるんだな、という程度に読んでもらえるとありがたい。
新卒就活は確かに大事だと思うが、それで一生が決まるわけではない。転職が当たり前の時代である今、いくらでも軌道修正はできよう。
視点を広く持ちながら、しっかりと時間を使って自分に向き合い、自分の興味関心、価値観に基づいて定めた「目標」は、就活だけでなく社会人として生きていくうえでの指針となるかもしれない。
【著者プロフィール】
Oさん
2018年 東京大学理科一類入学
2022年 工学部精密工学科卒業
2024年 東京大学大学院 工学系研究科精密工学専攻卒業
2024年 外銀入社
