はじめに
最初に断っておくと、これは後輩へのアドバイスでも失敗談でも何でもなく、本当にただとある一人の「就活体験」、それ以上でも以下でもない文章である。ので、そんな自分語りは読むに堪えないという方にはもっと為になる他の先輩方の体験記を読むことをおすすめしたい。
と、予防線をしっかり張ったところで、就職活動はどのように進めましたか、と聞かれれば、「手当たり次第」に尽きる。元々、幼い頃から「将来の夢は何ですか?」が最も苦手と言って過言でない質問だった。面白そうだと思うことはたくさんあるし、やってみたいこともたくさんあるけれど、絶対にこれをやって生きていきたいと思えるほどの何か一つを決められない人生。一つだけを選んだ結果、他のもっと魅力的な何かに出会えぬまま終わるかもしれないのが嫌で、結局何も選べないまま大学生になった。
そんなだから、三年生になって就活を始める段階になっても、この業界がいいとかこういう職種がいいとか、何一つ定まっていなかった。説明会にはたくさん参加したが、行けば行くほどどこも良さそうに見えてしまって、通るかもわからないし、と片っ端から応募した。結果から言えば、東大生である以上ある程度のところまでは大体通る。落ちる前提で申し込んだ企業数は多い時で一週間に二十社を超え、早々にキャパが足りなくなった。そうして漸く、自分にとって譲れないものは何かを考えるに至ったのである。
就活における悩みの種
今、私は自分の就活に悔いを残していない。嫌だと思うことはあったが、病むことも辛いと思うこともなく、周りと比べてもかなり元気なまま就活を終えた方だと思う。それができたのは、私が就活において自分のことを何より優先して考える姿勢を崩さなかったからだろう。
就活というのは、企業を探すにもエントリーするにも選考を進むにも、兎に角「他人との比較」がついて回るものである。それはシステム上仕方のないことだが、多くの就活生が「病む」に至るのは殆どがその比較によるものであるように思う。周りが応募してるからそろそろ始めなくては、友達はもう内定を持っているから自分はやばいのではないか、部長をやっているあの子と比べて自分のガクチカは弱いから少し盛った方がいいだろうか。情報が欲しくてネット検索をすれば必ず出てくる年収ランキング、ホワイト企業ランキング、学生に人気ランキング。学生も企業も、ひたすら比べられる世界。巷には就活塾なるものも現れ、選コンやら対策本やら、就活の正解がそこかしこで教えられている。だが、生来天邪鬼な私は、それに従うことに納得がいかなかった。定型文句の面接、皆が良いと言う企業、挫折を乗り越えた体験、そういう全てで自分の働く場所を決めて、果たして本当に満足できるだろうか。
話が長くなって恐縮だが、満足と安心は違うと私は思っている。恐らく、セオリー通りに進めていけば、安心できる結果は得られるだろう。だから、安心感を重視する人はそうするのが良いだろうし、それは全く悪いことじゃない。ここから先の無駄に長い文章を読む必要はなく、就活の進め方と調べて出てくるようなやり方に従う方がよほど有意義だと思う。ただ、あくまで私の場合は、それじゃ面白くないな、というのが本音だった。それで、とことん自己中になってみることにしたのである。
自己流を極めた就活
さて、私が人生で大切にしていることの一つに、他人に迷惑をかけず自己中に生きる、というのがある。綺麗事でも何でもなく、自分が今の自分に満足していなければ他人に優しくなどできない矮小な人間であることを知っているからだ。
就活というのは、基本的にどう進めようが個人の自由だし、それで人に迷惑をかけることもない。そういう意味では、私にとって好き勝手できる場であった。前述の通り、周りを気にしては疲れる一方だというのはわかっていたから、まずは自分が職場に求める条件を考えて、「一緒にいて疲れず、自分が素直に尊敬できる人が多い環境」を探すことにした。何せやりたいことが定まらないのだし、どこに行ったってやりたいことだけをして生きていけるのでもないのだから、それが一番大事だと思った。それからはできるだけ社員の生の声が聞ける場を探して、いいなと思える企業だけに応募するようにした。どうせ世の中の全ての企業を知れる訳でもないのだし、と自分が接点を持てた企業だけしか受けないことを決め、面接では全て本音で答えた。周りから一番驚かれたのは、面接の対策など一秒たりともしたことがない、ということだ。けれど、聞かれたことに答えるのに準備がいる方がおかしい、というのが私の偽らざる本心だったし、その方が選考の負担も減って楽だった。第一志望の企業なんて最後まで決まらなかったから「御社が第一志望です!」なんて言ったこともないし、そのうち転職するつもりだとか、転勤ありの企業でも東京を出る気はないだとか、お金はある程度は欲しいだとか、それはもう好き勝手答えていた。挫折経験を聞かれれば失敗はたくさんしてきたけど挫折したことはありませんと躊躇なく言い、忙しいけどやりがいがある、というような社員の話を聞けば選考の次の段階は即座にお断りした。多趣味の私にはプライベートの時間は大事だったし、だからといって仕事に手を抜く気はありませんというのをその類の人にわかってもらえるとも思わなかった。
そんな風に好き勝手していると、何段階か選考を進んでも私を肯定してくれるような企業にいくつか出会うことができた。その段階まで来ると、メンターがついたり最終面接の前に他の社員と話す機会が設けられたりする企業が多い。そこで私は遠慮なくたくさんの社員と繋いでもらって、とにかくお喋りをした。必ず聞いていたのは「この会社に入って一番よかったと思うことは何ですか」だ。これは答えそのものだけでなく、それに答えている時の社員の様子も参考にできる便利な質問だった。強いて言うなら……と答える人や、一つだけ?と他にもあることをほのめかす人、用意していたであろう答えをそのまま述べる人。そういう対話を繰り返すことで、そこで働くことが本当に楽しそうかどうかが見えてくる。
そんなことを繰り返して、内定をもらったうちの二社を残して迷っていた私の最終的な決め手は、メンターになってくれた社員の人柄であった。明確な基準を全くもって示せず申し訳ない限りだが、私がよりいいなぁ、と思ったのが今の会社のメンターの方だった。そう、直感である。ここまで好き勝手した私を肯定してきてくれて、何人もの社員と喋って、それで残った二社なのだから、きっとどっちを選んでも後悔しないだろうという気持ちがあった。だから、最後は恩義と直感だけで決めた。何の参考にもならないオチで悪いな、とは思っている。一つだけ言うなら、メンターの存在というのは思っているより大きいものだということは知っていていいかもしれない。たかが一社員に左右されたくないと思うならば余計に。
おわりに
最初から最後までただの感想文で、ここまで読んでくれた方には本当に申し訳ない気持ちである。が、就活生の時に体験談を読んだことがある身として、一つくらいこういう体験記があっても良いのではないかと思ったので、こんな形で寄稿させてもらった。
人によっては中途半端に見えるかもしれないが、私にとってはバランスの良い就活だったし、モノは言いよう考えようだ。忙しくはあったし、就活のシステムそのものに不満はたくさんあるが、自分の就活にはこれ以上なく満足している。
私のやり方そのものをそのまま真似するのが良いとは全く思わない(自分が大概変人だという自覚はある)が、世の中にはこんな風に就活を終えた人もいるんだな、と少しでも心が軽くなる人がいてくれれば嬉しい。そして、就活に疲れたあなたにこそ、一度立ち止まって自分を一番に考え、素のままの自分で就活に臨んでみることをおすすめする。
【著者プロフィール】
R.Sさん
2019年 上智大学入学
2020年 上智大学中退
2020年 東京大学文科二類入学
2024年 東京大学経済学部経営学科卒業
2024年 大手金融系企業入社
